= 渋沢栄一「実験論語処世談」より =

 

子曰。君子喩於義,小人喩於利。

子曰く、君子は義に喩り、小人は利に喩る。)





【目前の利害問題】

 君子は、何事に臨んでもそれが果して義しくあるか、或は義しく無いかと云ふ事を稽へ、それから進退の如何を決するもので、義しきに従つて所置するを主義とするのだが、小人は利害を目安にして進退を決し、利にさへなれば、仮令それが義に背くことであらうと、そんなことには一向頓着せぬものである。つまり、万事を利益本位から打算するのが小人の常で、正義の標準に照らし万事を処置するのが、君子の常である。故に同じ一つの事柄に対しても、小人は之によつて利せん事を思ひ、君子は之によつて義を行はんことを思ひ、其間の思想に天地雲泥の差があるとは、孔夫子が茲に掲げた章句の中に説かれた御趣意である。
 
 物事を利に喩つた方が利益であるか、将た義に喩つた方が利益であるか――この問題は一寸解決の難かしいもので、利に喩るのが必ずしも其人の不利益にならぬ場合がある。否寧ろ、其人に利益になる場合が無いでも無い。少くとも目前の利益丈けは確実なる場合がある。私は之に就て実際上に経験した一例を持つて居るから、茲に談話致して置かうかと思ふ。

 鉄道は、明治三十九年三月三十日に公布せられた法律によつて、国有といふことになつたのだ、その買収代金は鉄道債券で政府より買収会社に交附したものである。その債券は追つて鉄道公債に引換へられることになつて居つたのだが、まだ債券が本当の公債にならなかつたので、三十九年の暮から四十年にかけて、債券の市価は著しく下落したものである。当時、この鉄道債券を買ひ込んで置きさへすれば将来は必ず大に儲かるに決定つてたものである。

 

 

【渋沢栄一「実験論語処世談」】
https://eiichi.shibusawa.or.jp/features/jikkenrongo/index.html

 渋沢栄一(しぶさわ・えいいち、1840-1931)は、幼少の頃から『論語』に親しんでいましたが、実業に従事するようになった1873(明治6)年以降、『論語』を人生の指針としました。栄一の事績に関する資料集『渋沢栄一伝記資料』の中には、『論語』について語ったものが数多く収載されています。
その中のひとつ、「実験論語処世談」は1915(大正4)年6月から1924(大正13)年11月にかけ雑誌『実業之世界』に連載され、ほぼ同時期に竜門社の機関誌『竜門雑誌』に転載された栄一の談話筆記です。論語章句と読み下し文に続いてその解釈が語られ、多くはその後に実体験(実験)に基づく処世談が掲載されています。話はおおむね論語の篇章順に進められますが、残念ながら連載は「衛霊公第十五」の途中で途切れてしまいました。連載中の1922(大正11)年には、それまでの記事をまとめた書籍版『実験論語処世談』が刊行され、後に多くの版を重ねました。

= 論語章句一覧 (「小見出し」が為になる) =

 

 

【渋沢栄一の生涯】


[解  説]
西宮市立西宮東高等学校
教頭 霜澤 喜代子先生

渋沢栄一の生涯① 波乱万丈の青春

渋沢栄一の生涯② 銀行 製紙 生糸と綿糸など

渋沢栄一の生涯③ 哲学(論語と算盤)

 

 

 

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